家族旅行で、神戸港から福岡の新門司港までフェリーで一泊しました。
乗船したのは「せっつ」という大型フェリーで、2020年3月に就航したばかりの新しい船。
部屋からは広い海が見え、露天風呂もあり、船内には給水器やかわいい女性用浴衣の無料貸し出しまであって、とても快適な船旅でした。

娘と夫と一緒に、のんびりと過ごす時間は本当にかけがえのないものでした。
でもそんな中でも、私の心の片隅には武術──詠春拳のことがありました。
船上で修行された詠春拳
詠春拳の4代目といわれる黄華寶(ウォン・ワーボー)と梁二娣(リョン・イーティー)は、粤劇(広東オペラ)の役者として紅船戯班(こうせんぎはん)という一座で活動し、船で各地を巡業していたと伝えられています。
彼らは船の上で詠春拳を修行していたという説があり、それは単なる逸話ではなく、実際に稽古していると腑に落ちる部分があるのです。
狭い場所でも動作を完成させられるように設計された套路(型)、
揺れる足場でも重心を安定させて動けるように工夫された体の使い方。
船の上で修行するには、詠春拳は本当に理にかなった武術だと実感しています。
揺れる船上で小念頭を
実際、フェリーのデッキに出てみると、
風が強く、船は大きくてもやはりわずかに揺れています。
そんな揺れる船上で、私はそっと小念頭をしてみました。
波の音を聞きながら、ゆっくりと動作を進める。
視界の先には果てしなく続く水平線、そして沈みゆく夕日。
自分の小ささと、歴史の流れを感じずにはいられませんでした。
この道が今ここまでつながっていることへの感謝と、
自分もその流れの中に身を置いているという実感。
いつもと違う空間で小念頭を行うことで、また新たな発見がありました。
家族との旅の時間も大切に
もちろん、今回の旅の目的は家族との時間。
船内では食事をしたり、デッキで風を感じたり、
娘とお風呂に入ったり、普段とは違う非日常を満喫しました。

一泊二日の短い旅でしたが、心も身体もリフレッシュでき、
武術のルーツにも思いを馳せることができた、とても豊かな時間でした。
またひとつ、詠春拳と自分との距離が縮まったように感じます。